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 少女が頷くと、彼は淡々と語り始めた。 「確かに、お前の予想は当たっている。なにか言われるまで黙っているつもりだったが、こんなに早く見抜かれるとはな。少し、お前を見くびっていたかもしれない。  ……お前の言う通り、人が恐れる鬼とは私のことだ」  少女は無言で頷いた。緊張していた。彼との間に流れる、張り詰めた空気に。早く、さっきまでのように笑ってほしい、と願う。けれど、これからも彼と暮らしていくためにはこの話は避けて通れないのだということも、知っている。  彼が真剣な表情で続けた。 「ただ、勘違いはしないでほしい。……鬼とは、人を食い荒らす者のことではない。世の中の人間が、恐れ方を間違えているだけだ」 「じゃあ、なんなの?」 「……魂を解き放つ者のことだ」  彼は丁寧に説明してくれた。  鬼には、自分が死者だと認識できずにこの世をさまよっている魂を成仏させる役割があること。鬼になるのは一年に一度だけで、それ以外の時は普通の人間として暮らしていること。  さらに、不老不死であることや、日本国の全土にいる魂すべてを解き放てば一生人間として生きることになり、特別な力も失うこと。 「特別な力って?」 「たとえば、さっきのように高速で移動することなどだ。他にもあるが……」 「すごい!」  思わず大きな声でそう叫んだ少女に、彼が怪訝そうな顔を作る。けれど、それでも構わずに少女は続けた。 「そんなことができるの? わあー! あと、不老不死っていうのもすごい。死なないんでしょ?」  少女は興奮していた。自分が今まで頼ってきた彼は、特別な力を持っていたのだ。それを知っただけで、彼に対する安心感が絶大なものに変わっていく。  すごい、すごい、と無邪気に叫ぶ少女を、彼は呆気にとられたように見ていた。  ややあって、彼の口から言葉が出てくる。 「お前は、私を恐れないのか」 「うん」 「……じゃあ、このことを知っても、私といたいと思ってくれるか」 「もちろん。そっかあ、鬼って怖くないんだ」  彼との間の空気が和んだことも嬉しくて、間髪入れずに少女は頷く。その次の瞬間、彼に強く抱きしめられた。  なにが起こったのかわからない少女の耳元で、彼が言う。 「ありがとう」  その声は、強い安堵を帯びていた。それに、彼は怖がっていたのだとはじめて気が付く。  自分の正体を知って、少女が自分を恐れること。彼は、嫌われたくないと怯えていたのだ。 「……お前を、ずっと守っていくから」  その言葉の真の意味を知らない幼い少女は、素直に顎を引く。すると、彼はやっと少女から離れた。そのときにはもう、いつもの穏やかな表情に戻っている。 「じゃあ、行くか」  そう言って少女を抱き上げると、再びすごい速さで走り始める。彼が地面を蹴るタンタンという音を、少女は、心地良いと思いながら聴いていた。
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