第1話 お約束からの

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第1話 お約束からの

よくある話だ。  落馬した衝撃で、とか、高熱を出して寝込んだらとか、そんなことで前世の記憶を取り戻して自分が転生者だと思い出す。  もはやテンプレ、王道。  転生先がゲームか小説か、ってそんな違いがあるだけで、強制力とか、そんなもののせいで足掻いてもどうにもならない運命が待ち構えてる。って、そんなやつラノベで散々読んだ。  読んだから、お腹いっぱいって言うか、本当によくあるんだけど、まさに自分もそれなんだ!って気付いたのはベッドの上だった。  前世の記憶をとりもどして、目が覚めて、ここがどこだか理解するまでしばらくボーッとしていた。それで、名前を呼ばれて、視界に入る自分の手足やらお腹やらを見て叫びそうだった。  だって、もう自分の転生先が小説の世界だと分かってしまった挙句、寄りにもよっての人物に生まれ変わっていたからだ。 「いくらなんでも酷い…なんで悪役令息……」  よりにもよって、僕が生まれ変わったのは、官能小説に出てくる悪役令息だった。伯爵家の次男で、王子様の婚約者!そう、男なのに王子の婚約者。15歳になって入学する学園で、王子に近寄る男も女も排除するために、手下を使って片っ端からそいつらの純潔を散らしまくると言う悪行を行う悪役令息。  もちろん、自分の手は汚さない。伯爵家の権力と王子の婚約者と言う肩書きで、やりたい放題しちゃう悪い奴なんだ。しかも、こんなに自分が太っているから、したくても出来ないのか、他人がヤラれているのを眺めて興奮しちゃう変な性癖の持ち主。  最終的に、この性癖と悪行が婚約者である王子にバレて断罪される。って立ち位置の僕だ。  しかも、断罪されて処刑される時、太りすぎて脂肪がつきすぎていたってことで、振り下ろされた斧が脂肪で滑って一回で首が切れなかった。って書かれてたんだよねぇ。そんなの最悪じゃん。一回で死ねないとか、マジキツい。つか、そんな死に方したくない。それ以前に、そんな性癖は嫌だ。僕はゲイじゃない。女の子が好きなんだ。眺めるんじゃなくて、自分が女の子と、やりたいに決まってる。  さて、どうしよう。 「フィンリィ様?ご気分が優れませんか?」  カタカタとワゴンを押しながらメイドが近づいてきた。ワゴンにはお茶のセットがのっている。もちろん、甘そうなお菓子までセットになって。 「……いや、べつに…」  寝起きでそんなもの食べる?  確か、僕は五日間ぐらい意識が戻らなかったんじゃなかった?それなのに、一番に食べるものがそんな甘いお菓子?普通お粥じゃない?  差し出されたお茶を一口口に含んだ途端、吹き出しそうになった。無理無理、飲み込めない。 「うぇぇ」  行儀が悪いけど口の中のお茶をカップに吐き出した。
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