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「フィンリィ様?」
メイドが大慌てで僕の背中をさする。違う、違うんだよ。気分が悪いんじゃなくて、このお茶のせいなんだ。
「な、なにこれ?」
「は?なに、とは?」
メイドが怯えたような目をして僕を見る。そりゃそうだ。僕はわがまま放題の伯爵家の次男だ。気に入らなければメイドなんか、簡単にクビにする。いや、その前にこの巨漢で殴る蹴るは当たり前なんだ。
「お茶……なんで、甘いの?」
カップを突き返しながらメイドに問うと、メイドはますます怯えた顔になる。
「も、申し訳ございません。久しぶりに口に為さるのでいつもより多めにお砂糖を入れております」
メイドの答えを聞いて、僕は目眩がした。
お茶に砂糖?これはもはや、麦茶に砂糖と同じレベルの問題だ。僕の中ではありえないことだ。
「砂糖の入ってないお茶をすぐに持ってきて」
僕が憮然とそう言うと、メイドは大慌てで新しいお茶の支度を始めた。せっかくのハーブティーなのに、ただ砂糖の甘さだけしかしないお湯だった。今度はスッキリとした味わいのハーブティーを堪能できるだろう。何しろここは伯爵家だ。お茶ぐらいちゃんと入れられるメイドだろう。
スッキリとした味わいのハーブティーを飲みながら、僕は部屋を見渡した。うん、間違いない。
「まさかとは思うけど、僕にお見舞いの品が何一つ届いていないのかな?」
そう言ってメイドを見れば、メイドはすぐさま姿勢を正して僕を見る。だって、サイドテーブルに手紙の1つも置かれていないのだ。これは大問題だ。
「は、はい……あの、はい、そう…です」
答えにくいことを聞いてしまった。その自覚はある。何しろ僕は性格の悪い白豚だ。わがままで、癇癪持ちで、王子の婚約者としてやりたい放題の悪役令息だ。政略結婚のために王子の婚約者になったのだ。
だから、王子からお見舞いの品もなければ手紙も来ない。
まぁ、そんなもんだろう。
見た目が悪い上に、性格も悪い婚約者なんて、大切にされるわけが無い。むしろ、なんで未だに婚約者なのか不思議なくらいだ。
だけど、僕は知っている。あと一ヶ月もしないうちに学園に入学する日が来てしまう。そうなれば、王子は学園の中で可愛らしい子爵令嬢に出会ったり、騎士候補になる伯爵子息と友だちになったり、側近候補の侯爵子息と遭遇したり、側室を狙う伯爵令嬢に迫られたりetcetcなイベントが待ち構えているわけだ。
そうして、そんなイベントが起こる度に、婚約者である僕はヒステリーを起こして、相手を陵辱するわけだ。清楚な令嬢の純潔を散らして、高潔な子息を地に落として、それを見て興奮する変態白豚野郎に僕はなってしまうわけだ。
「……………そんなの嫌だ」
ハーブティーを飲んでスッキリとした頭で考えると、ますます嫌になる。
第一、この状況から見ても、既に婚約者である王子から嫌われているじゃないか。
そんなわけで、僕はある決断をした。
目いっぱいわがままを言ってしまおう。
それしかない。
ものすごく申し訳ないけれど、今はそれをするしか僕に道は無いのだ。だって、転生してきたから、この世界の常識がまるで分からないんだもん。
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