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言いながら涙が溢れてきた。
デブでわがままで、ヒステリー。伯爵家の次男程度のくせに王子の婚約者なんて、全くもってありえないことだ。
「だからね、きっと王子は学園に入ったら、素敵な人に出会うと思うんだ。僕なんかより綺麗で家柄も良くて、優しい人に出会うんだよ。そうしたらきっと、僕のことなんて完全に忘れるんだ。それこそ、僕の事が邪魔になって、婚約なんて破棄するんだよ。……だって、そうでしょう?僕がここに養生しに来てるのに、何も聞いてくれないんだよ?あなたに伝言のひとつも伝えてくれなくて……手紙のひとつも寄越してくれない。王子の周りの人たちも、僕の事が嫌いなんだよ。普通なら形式的にだけでも婚約者である僕のことを心配しているふりをするはずなのに…それさえもない」
僕は自分で言って、自分で傷ついた。
惨めだ。
婚約者に心配されないどころか、その周りの侍従たちからさえも何もして貰えない婚約者。家の繋がりを考えた婚約だとももはや思えない。
「そんなに悲観しなくてもいいじゃないか」
いつの間にかにクロードが僕のそばにいた。
醜く泣きじゃくる僕の顔を覗き込んでいる。
「ありがとう。あなたのその優しさが王族に対する忠誠故のものだとしても、今の僕には必要だと思う」
僕はゆっくりと体を動かして、ソファーの肘掛けに捕まり立ち上がった。クロードが、手をかそうとしてくれたけど、僕は何とか自力で立ち上がれた。
「食事はね、ここは港町だから、美味しい魚が食べられる。肉を食べるより魚の方が体にいいって聞いてるんだよね」
僕がそう言うと、クロードは黙って頷いてくれた。僕は完全に冷えきったお茶を飲み干すと、ようやくソファーに座った。
「僕の指導をして下さるんですよね?」
僕は改めてクロードに聞いた。
「ああ、してやる」
クロードが頷いた。笑ってくれはしなかったけれど、眉間にシワは寄っていなかった。
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