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「君はとんだ狼少年だ」
突き付けられた書類を受け取りながら、深山は浅沼の目を見た。
「嘘は吐いていませんよ。しかしラーフ計画とは皮肉な名付けです」
太陽活動の異常に因り、深刻な温暖化の打開策として打ち上げられた衛星の計画名をなじりながら笑う相手は心底楽しそうである。
「悠長な計画だよ」
「手遅れですかね」
「最後の希望だと皆が期待している」
雑談を交わしながら書類をめくり上げた深山は、内容を見もしないでハンコを押して突き返す。
「僕が君を信頼している様なものさ」
「私はラーフが太陽に辿り着くまでに、人類が温暖化を抑止出来ればと願っていますがね」
「百年計画だものなぁ」
活発化して行く太陽の活動を抑えるべく立ち上げられた壮大な計画。新たに見つかった安定な人工の超大型元素を太陽に打ち込む事に因り、連鎖する核融合の働きを抑え地球温暖化を抑止する。
その筈である、人の威信を賭けたもの。
打ち上げられた太陽活動抑制衛星ラーフは、百年の時を経て太陽に到達する。
「孫や玄孫の時代には、この異常な暑さも収まる筈です」
「どうせ僕等には見られん」
深山の言葉に浅沼は返された書類で口元を隠し本音を零す。
「共に種無しですもんねえ、未来なんてどうでも良い」
囁く声は良く通った。
「稀代の天才浅沼教授、貴方の計算は本当に正しいのかな」
「ええ、あの公式の一部は未だ私以外には解けていませんが、核融合を止めるのは事実です」
「抑制はしないと」
「百年あれば私以上の天才が現れるでしょう。ラーフが太陽に到達するまでに誰かが事実に気付けば良いですね。電波なら片道八分で衛星の動きを止められますから」
「ダモクレスの剣だな。人は栄華の中の危険に気付かん。まあ百年後、太陽が死のうが僕等は生きとらんし、他人任せな人類なら滅ぶべきか。しかし、ラーフがどんな姿で現されるのかを皆は知らんのかねぇ」
深山も暗く笑う。
ラーフはインド神話における太陽を喰らう日蝕の狼の名だ。
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