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話者
城下町フレアランスの商店街を抜けたところに、大衆向けの酒場がある。わたしはお酒を飲んだこともなかったが、人を探すためにこの場所を訪れていた。情報を得るには酒場が一番いい。特に、わたしが知りたい情報の種類を考えれば尚更だ。
意を決してウエスタンドアをくぐったまではよかったが、慣れない場所に気後れしたわたしは、立ちすくんでしまった。その結果、やはり目立ってしまったようで、たちまち酔った男たちに絡まれてしまう。
「どうした姉ちゃん、そんなところに突っ立って」
「こっちにきて一緒に飲まないか。奢るぜ」
二人の中年男が声をかけてきた。すっかり出来上がっている様子だ。わたしは無視しようとしたが、男の一人がわたしの腕を掴もうと手を伸ばしてきた。
ガタン、と大きな音がして、カウンターで飲んでいた大柄な男が立ち上がった。男は振り向きざまに酔っ払いの腕をひねり上げ、悶絶させた。
「下品な飲み方をするんじゃないよ」
男は鋭い視線で中年男を睨みつける。酔った男はたちまち酔いが冷めたように青ざめ、声にならない悲鳴を挙げながら外へ逃げていった。
「おい、なんだお前」
それを見たもうひとりの酔っ払いが威勢よく立ち上がった。しかし、彼もまた男と目が合うなり、石にでもなったように固まってしまった。
「俺に言ったのか?」
男が聞くと、酔っ払いは首をぶんぶんと横に振って、逃げた方の酔っ払いを追ってドアの向こうに消えていった。男はそれを確認すると、カウンターの席に戻って何事も無かったようにビールを飲み始めた。
わたしは周囲の視線を感じながら、お礼を言おうと男の隣に座った。
「あの、助けて頂いて、ありがとうございます」
わたしはなんとか言葉にするのが精一杯だった。これでは情報を得るなど到底無理だ。わたしは自分が嫌になり、ため息をついた。
「酒も飲めないのに、こういう所に一人で来るのはお勧めしないな」
彼はそう言うと、残ったビールを一気に飲み干し、マスターに向かって手を上げた。
「この娘にミルクライムをくれ」
ほんのりグリーンがかった飲み物がわたしの前に置かれる。
「飲んでみるといい。気分が落ち着く」
言われるまま、わたしは一口飲んだ。甘さの後に残る爽やかな後味が心地良い。
「それを飲んだら、早く帰れよ」
そう言う彼の格好をよく見ると、随分と浮世離れしていた。紫のベストと焦げ茶色のズボン、その上からくたびれた外套を羽織っている。顔はわりとイケメンだが、奇抜な格好のせいで大道芸人のように見えなくもない。わたしは思い当たる事があり、彼に問いかけた。
「もしかして、あなたは話者ですか」
彼はわたしの質問には答えず、枝豆をつまんでいた。
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