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翌日。
待ち合わせ場所に着くと、15分前にも関わらず既に杉宮の姿があった。
「先輩、おはようございます」
「悪い、待たせて」
「いえ、全然大丈夫です。楽しみすぎて早く来すぎちゃっただけですから」
ふわふわと嬉しそうなオーラを纏う杉宮は本当に犬みたいだ。
「先輩の方からデートに誘ってくれるとは思ってませんでした」
「まぁ、たまにはな。1人じゃ入りづらい店とかもあるし」
プライベートで会う理由を作りたかったというのが本音だったが、杉宮はそんな俺の本心に気づくはずもなくキラキラと楽しげにしていた。
目的地は少し遠いが美味しいイタリアンのお店で、以前同僚に教えてもらったところだ。
店内に入ると予約していた旨を店員に伝え個室へと案内された。
あまりにも固い雰囲気の店は杉宮が怪しむだろうと思ってのチョイスだったが、正解だったようだ。
しかし問題はきちんと想いを伝えられるかどうかだ。
料理が運ばれてきた後も杉宮はいつも通り黙々と食べ続けていた。
俺が話を振るたびに手を止めて真っ直ぐこちらを見つめて返事をしてくれるのはいつも通りの光景だが、今日ばかりは緊張してしまう。
そうこうしているうちに食事を終えてしまい、結局告白するタイミングを逃してしまった。
「すごく美味しかったです。今日は誘っていただきありがとうございました」
「いや、こっちこそ付き合ってくれてありがとな。休日にいきなり呼び出して悪かった」
会計を済ませると解散の空気になり、俺は慌てて口を開いた。
「あー……この後ちょっと時間あるか?」
「はい、特に予定はないですけど」
「じゃあ、買い物に付き合ってほしいんだけど」
「もちろん構いませんよ」
杉宮は特に疑いもせず承諾してくれた。
俺は内心ほっと胸を撫で下ろしながら、近くの大型商業施設へと向かった。
我ながらなんとも情けない誘い方だったと思う。
「先輩、何か買いたい物でもあるんですか?」
「ああ、ちょっと秋物の服を見たくて」
「そうですか。俺も先輩と同じブランドで揃えたかったのでちょうど良かったです」
そんな会話をしながら、俺達はエスカレーターに乗ってメンズフロアへと向かう。
時間稼ぎの為に適当についた嘘だったがデートのようで何だか楽しくなってきてしまった自分が居た。
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