始まりの日。

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『金曜日のイケメン』が常連として認識されるようになったのは、今年の3月頃だったと思う。 アルバイトスタッフの美彩(都内の大学生2年生)が「あのイケメンの人、そういえば毎週金曜日の19時に来て、いつも同じメニュー頼んでるよね?」と何気なく言った一言が始まりだった。 それから他のスタッフ、店長までもが『金曜日のイケメン』と呼ぶようになり、当の本人はそう呼ばれていることに気がついてはいないが(と、思う。思いたい。)、俺たちの中ではちょっとした有名人になっていた。 毎週同じ曜日の、同じ時間にお一人様で来店する。 それだけでも、毎日変わり映えのしない日常を過ごす人にとっては、充分すぎるほどの話題のネタなのだが、みんなが揃って噂をする理由が他にもある。 それは、イケメンの放つオーラとキラキラとした容姿だ。 彼の金髪のサラサラと流れる髪、吸い込まれるような大きな目、白くてきめ細やかそうな肌。この店にはふさわしくないような彼のその端正な容姿と、まるで芸能人のようなキラキラとしたオーラ。 そんな彼が、庶民の代表のような古びた居酒屋に訪れるのだ。 しかも、毎週決まった曜日の同じ時間に、お一人様で。 純粋に俺は、彼に似つかわしくないこの店に、彼が訪れる理由だけが気になっていっていたんだ。 ただ、それだけだった。 あの日の出来事があるまでは。
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