隼人Side

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「いらっしゃいませ。二名様ですか?こちらへどうぞ」  僕達は案内された席につき、二人ともとりあえず目に付いたランチメニューを頼むことにした。 「正直に言ってくれ。俺の事どう思っているんだ?」  注文した後、樹が唐突に聞いてきた。 「なんだい急に。僕の気持ちは前にも伝えたはずだけど」 「前と今とじゃ違うかもしれないだろ」  樹の顔は真剣そのものだった。僕の気持ちは変わってないんだけど…もしかして、それが嫌だった? 「…というか、俺の事避けてなかった?」  あー、ひょっとして月曜日の事か?それはだね…。 「君にとんでもないことをしたから合わせる顔がなかったんだよ」  というかなんで樹が申し訳なさそうにするんだ。悪いのは僕なのに。 「…そうか、俺としては全然気にしてないんだけど」  そういうことを言ったのは、僕を傷つけないようにする為だろう。 「…君って優しいなぁ。」  樹は本当に優しいんだ。だから好きになったんだ。でも、その優しさが痛いんだ。 「恋人でもないのにあんなことされたらぶっ飛ばして『俺の前に二度と姿を見せるな!』っていうと思うんだけどな、普通」 「いや、まぁ、確かにそうだが」  樹は笑っていた。まぁ、苦笑いというやつだろう。それでも僕はなんかホッとしてしまった。 「……ありがとう」 「おまたせしました。こちら、本日のランチです。」 「じゃ、食べようか。」 「おう、じゃぁ、いただきます」  僕達は昼食を食べ始めた。初めて入ったところだからちょっと不安だったけど美味しいな。 「この店、大当たりだね」 「ああ、うまいな」  樹も同意見みたい。それはなによりだ。  ここで僕は気になってることがあったので、それを聞くことにした。 「最近元気ないように見えるけど何かあった?」 「え?」  驚いたような声を出して固まってしまった。やっぱり図星か。 「ほら、ここの所、なんか暗い表情してるから」 「……そうかな?」  樹はそこのところはあまり意識してないようだ。 「うん、ちょっと心配だよ」 「ああ、悪いな。大丈夫だから気にしないでくれよ」  樹、大丈夫じゃなくても大丈夫って言っちゃうよねぇ。 「うーん。無理してないか不安なんだよねぇ」  昼食が終わったので僕達はレジへ向かった。 「僕が奢るよ」  僕が財布を出すと、樹が奢らせまいと遮った。 「ええ?映画も奢ってもらった上に飯も奢るっていうの?そういえば先週もお前の奢りだったよな。だったら、俺に奢らせてくれよ」  先週のことも覚えてるのか。流石というかなんというか、まぁお金のことだしなぁ。 「…だってお前が俺に金使わせないようにしているのがなんとなく分かるし。だからもうそんなに気を使うなって」  気を使うなって言われてもなぁ。樹は本当に優しいな。気を使ってるのは樹の方じゃないか。 「これは僕の気持ちの問題だ。 「だってさ、最初にノープランデートだって言ったよね。デートなら奢るのが基本でしょ。 「とにかく、僕が奢る!」 「わかった。じゃあお前に任せるわ」  とにかく押し切ることで、奢ることに成功した。  それにしても樹、僕がデートという単語を出したときに怪訝そうな顔してなかった?  レストランを出たあと、僕はやっぱり気になった。 「樹、さっき『大丈夫だ、気にすんな』って言ってたけど…本当に?無理してない?」  僕は樹の手を掴んだ。そのとき、一瞬樹はびくっとしたようだ。 「だから、大丈夫だって。無理してねえよ」  樹は笑顔でこう答えてくれた。 「嘘だよね」  だって樹って優しすぎるんだもの。だからなんでもかんでも一人で抱え込んでしまうんだ。僕は樹の目をじっと見た。 「……」  樹は黙ってしまったが、何か言いたそうに見えた。 「やっぱり。樹ってわかりやすいもん。 「…言いたくないなら言わなくていいよ。ただ僕は君の力になりたいだけなんだ。 「お願い、なんでも聞くから話して」  僕は食い気味になった。樹は少し考え込んだ様子だったが、観念したように口を開いた。 「……別に大したことじゃないんだけど。 「俺の職場、毎日残業続きで、先週と今日はたまたま休めたようなもんだが、休日出勤とか珍しくないし。給料はそこそこだけど… 「最近は上司に怒られてばっかりだし、同僚からも嫌われてるみたいだし、後輩からは陰口叩かれてるし。 「俺って、いらない存在じゃないかと思って」  樹が暗い顔をしてたのは仕事のせいということか。だから、そんな会社辞めればいいのに。あと最後の言葉は聞き捨てならないぞ。 「だって、俺って無能じゃん。頭悪いし、運動できないし、友達いないし、顔も良くないし、それに、」 「ストップ!」  樹が自己卑下モードに入ったので、僕はそれを制した。それに顔は悪くないぞ。 「それ以上自分を貶めちゃダメだよ。君がどんなに無能でも、バカでも、頭が悪かったとしても、友達がいなくても、イケメンじゃなかったとしても、それは全部個性だから。そんなこと言ったら、世の中のほとんどの人がそうだろ?だから、自分のことを悪く言うのはやめようよ」 「フォローのつもりなのか?それ」  咄嗟にでてきたとはいえ、我ながら酷い台詞だな。案の定、樹にも突っ込まれてるし。それに僕は樹はイケメンだと思ってるよ。 「もちろんだよ」  僕が言いたかったのは「自分のことを悪く言うのはやめようよ」だからね。でも、僕にしたら樹がなにも出来なくなっても、それでも僕にとって樹は大事な存在なんだ。 「…ありがとう」  樹は俯いてしまった。あ、照れてるな。耳まで真っ赤になってる。…可愛いなぁ。僕は樹の頭に手をのばし、そして撫でてあげた。 「ちょっ!?︎なにやってんだよ!」 「え?樹のこと慰めているんだけど」  樹は明らかに動揺していた。そういうところがますます可愛いな。 「恥ずかしいだろっ」  樹に手を払いのけられてしまった。 「僕は樹にもっと甘えて欲しいんだけど」 「だからっていきなり頭撫でるのはおかしいだろ」  樹はまたも俯いた。僕は構わず頭を撫でる。だって、君の頭を撫でたいんだもの。 「樹ってすぐ一人で抱え込むタイプだからさ。こうでもしないと頼ってくれないと思ったんだよね。 「もっと僕を頼っていいんだよ?」
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