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「はぁ…」
僕は大きなため息をついた。
樹が自分の好意に気がついていなかったのが、正直に言うとショックだった。まぁ、樹はそういうことは鈍感だろうなとは思っていたので、想定の範囲内ではあるけど。
そんなことより!
最低なことをしたのに「また遊びに来ていい?」だってさ。どんな顔して会えばいいっていうんだ…まぁ、絶縁宣言されるよりずっといいんだけど…。
「…樹って本当にいい奴だよなぁ。だから不安なんだよ」
その気もない相手からナニをしゃぶられたらキレるどころの話じゃないよ。きっと僕のことを傷つけたくないからああいうことを言ったんだろう。
優しすぎる。樹は優しすぎるんだ。よく仕事のことで愚痴ってるけど、それだって人がいいことに付け込まれて無理難題押し付けられてるんだ。
こんな調子じゃいずれ取り返しがつかないことになるに違いない…相手に弱みを握られて関係を迫られて…
…僕はいつの間にか昼間の出来事を考えていた。気持ちよさそうに頬を赤らめる樹の顔、そそり立った樹のアレ、そしてそこからほどばしる精液…。
気がついたら股間がテントを張っていた。僕はティッシュを用意し、ズボンとパンツを下にずらし、自分のモノを扱いた。僕の頭の中では樹が喘いでいる。いつの間にか僕は樹を犯していた。
「樹!いつき!」
僕は欲望を解き放った。それをティッシュで拭き取り、ゴミ箱に投げ入れる。
暫くすると僕は罪悪感と虚無感に襲われた。本当に僕は最低だ!
―翌日。
朝から憂鬱だ。でもそんなこと言ってられない。僕は気力を振り絞って会社に向かった。
「おはようございます」
僕はいつものように挨拶をしてデスクに向かう。
僕はパソコンの電源を入れて、仕事に取り掛かる。メールチェックして、資料作って、それから…… 僕はキーボードを叩きながら、樹のことを考えていた。
…樹は僕のことを許してくれるだろうか?昨日あんなことしたのに普通に接してくれるのかな。
そんなことを考えているうちに終業時間が近づいてきた。僕は仕事を切り上げて帰ることにした。
帰り道、買い物を思い出したのでスーパーに立ち寄る。僕は食材を買い込み、帰路に付くと、なんと樹が現れたではないか。
「お疲れ様」
樹はこちらに向かって挨拶してきた。その様子はいつもと変わらなかった。
向こうが挨拶してきたのだ。無視するわけにはいかないじゃないか。
「あぁ、おつかれ」
僕は軽く手を上げた。しかし、居た堪れなくなってきたので目を逸らす。
「……じゃあ、僕はここで」
僕はその場を足早に去って行った。
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