隼人Side

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 ―土曜日。今日は休日だ。  僕はまずお掃除ロボにスイッチを入れる。そして買い込んだ食材でもって作り置きをすることにした。  僕は自炊してる訳だが、帰る度にいちいち献立を考えたり手間をかけるようなことはしたくないので、今日みたいな休日におかずを作り置きするのだ。わざわざ作り置きしないでその都度買ってもいいんだけど、そうするとお金がかかるというのと、何より自分好みの味付けが出来るというのが大きいね。なんだかんだいって僕は料理が好きなんだな。  とりあえず一週間分の作り置きを終えたら、お掃除ロボの方も掃除が終わったみたい。  僕は部屋中を見渡し、気になるところがあったら手で掃除をする。いいやつだったら細かいところも掃除出来るみたいなんだけど、それだと値段もいいやつになってしまうからなぁ。でも今のやつでも掃除の手間がだいぶ省けたから買ってよかったよ。  家事が一段落すると丁度お昼になったので、僕は昼食の準備を始める。うどんにしようかな。  冷蔵庫に野菜と鶏肉を少し残しておいたので、それを切って水とともに鍋の中に入れる。  麺はレンチンし、茹だった鍋の中に入れ、麺つゆを入れたら完成だ。  僕がうどんを食べ終えたとき、スマホにメッセージが来ていた。 『日曜日、会えない?』  樹からだ!樹はどういうつもりでこんなメッセージを送ったんだ?まさか樹の方から僕を誘うなんて。  僕はしばらく悩んだ。樹は僕のことをどう思っているのだろうか?もしかして、「もう二度と会うな!」と言われるかもしれない…。  でも、僕は樹に会いたかった。熟考し、僕は「うん、大丈夫だよ。どこで会う?」と返信した。  その後『日曜日の朝10時に駅前集合でもいい?』と返ってきたので「わかった。朝10時ね。オッケーだよ」と返した。  やり取りを終えた後、僕は念押しするように「日曜日楽しみにしてます」というメッセージを送った。  ―日曜日。  楽しみ半分、怖さ半分といった心境だ。朝食を済ませ、身支度を整え、家を出た。  待ち合わせ場所の駅に着いた時、時刻は9時半だった。  約束の時間までまだ30分もあるけど……樹はまだ来ていないようだ。  僕は樹が来るまでの間、近くのベンチに座って待つことにした。  こういう時ってどうなんだろうな。何がどうなんだというと、待ち合わせ時間のことだ。遅れるのは当然良くないにしても、早く来すぎるというのも気を使わせるから、かえって良くない気がする。とはいえ着いてしまったものはしょうがない。 「やあ、おはよう」  しばらく待っていたら樹がやってきた。時間を見たら、まだ10時前だ。考えることは一緒なんだなぁと思ったらなんだかおかしくなってしまった。 「おはよ…昨日は眠れなかったかい?」  僕はなんでこんなこと聞いたのかなぁ。 「いや、普通に寝れた」  僕の要領を得ない質問に、樹は素っ気ない感じで答えた。まぁ、寝れたのならよかった。 「ハハハ、そういうとこ、樹らしいな」  見たところ、樹は相変わらず樹のままだった。僕は思わず笑ってしまった。 「なんだよそれ」  樹は怪訝そうに答えた。 「ところで、これから何しようか?」  僕は樹に今日の予定を尋ねてみた。それを聞いた樹は唸っていた。何も考えてないっぽいな。 「ノープランデートってことだね。たまにはいいかも」  僕は冗談っぽく言ってみた。 「デートって!」  樹の反応を見るに動揺はしてるっぽいけど、拒否してるようには見えなかった。僕はちょっと安心した。 「とりあえず、映画館行ってみない?」 「ああ、いいぜ。行こっか」  僕の方で提案してみたら、樹が乗ってきてくれたので僕達は映画館に行くことにした。 「うーん、どれにしようか……樹はどれが見たいとかある?」 「俺はあんま映画見ないからなぁ…だから、実はこれまだ見たことないんだよ」  樹が指したのは、鬼を滅ぼすやつだった。 「ああ、これなんか話題になってるね。まだ見てないって意外だなぁ。樹、オタクっぽいのに」 「オタクって言っても色々種類があるのっ…て、やっぱり俺ってオタクなのか…」  オタクって言われてしょんぼりしてる?別に今日日オタクって悪口じゃないと思うんだけどなぁ。樹には悪いけど、しょんぼりしてるところも可愛いなと思ってしまった。 「じゃあこれにしよう。僕もまだ見たことないし。話題作だしね」  そういうわけで、僕がチケットの代金を払って劇場に入った。 「結構面白かったね。流石大ヒットしてるだけのことはある」  なんか話題になってるなーくらいでよく知らなかったんだけど、思いの外面白くてつい見入ってしまった。樹も「面白かったな」と言ってたのでこれで正解だったみたい。 「チケット代のことなんだけど…」  樹が申し訳なさそうに言う。 「いいよいいよ。カードでまとめ買いした方がポイントがついてお得になるからね。」  申し訳なさそうにしなくていいのになぁ。映画館行こうって言ったのは僕なんだし。 「いやさ、なんか俺がお前の好意に漬け込んでるみたいでさ…」  そんなこと考えてたのか!樹、好意に漬け込んでるのは僕の方だよ。僕は君の優しさに漬け込んでるんだよ…だったら、尚のこと、君に払わせるわけにはいかないじゃないか。 「たかが千数円でそんな事言うの。だから樹は気にしなくていいんだって」  僕は樹の方をじっと見た。 「…わかった。じゃあお言葉に甘えるわ」  樹は根負けしたみたい。良かった。 「気を取り直してお昼にしようか」  僕達は映画館を出て、近くのレストランに入った。
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