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ウィリアムズ男爵家の隻腕令嬢
グブリア帝国北部国境に位置するクラウス侯爵領。わたしが侯爵家の邸宅を訪れるのは年に一度、雪が解けて木々が芽吹きはじめた頃に開かれる迎春の宴だ。
クラウス領でも最北の地に居を構える我が家のまわりは未だに雪がチラつくけれど、領主の住まう南部の景色はすっかり春めいている。肩にかけたミンクファーのケープも必要なさそうだった。
「ソフィア、ケープは脱いでおくわ」
「お預かりします。もうそろそろ侯爵邸ですね」
侍女のソフィアはケープを脇において、わたしの隣に座ると揺れる馬車の中で器用にドレスを整え始める。
「素敵なドレスですね」
さっきまでソフィアと並んで座っていたチャーリー先生が物珍しそうにわたしの左肩を見た。
「どうせ注目されるならこういうのの方がいいでしょう?」
「そうですね」と言いながら、チャーリー先生は少し困った顔。
馬車が停まり、窓の外をうかがうと三才離れた双子の弟たちが両親と一緒に屋敷へと向かっていた。クラウス侯爵邸は庭まで人で溢れている。
双子がこっちを振り返り、置いてけぼりのわたしを指さしながら笑っていた。ウィリアムズ姉弟の仲はお世辞にも良いとは言えない。
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