十六歳の誕生日の夜

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十六歳の誕生日の夜

変わりばえのしない軟禁生活も今日でちょうど丸二年。ウィリアムズ家の離れから見える最果ての氷壁は今日もキラキラと陽光を反射していた。 青みがかった透明感のある氷。その氷壁があるのはクラウス侯爵領最北の地。グブリア帝国北部国境でもあり、氷に覆われた断崖絶壁の向こうに何があるかは架空の物語としてしか語られていない。 クラウス侯爵家の長男が「氷壁の小侯爵」だとか「氷壁の貴公子」と呼ばれていることを知ったのは去年の迎春の宴でのことだ。 容姿端麗で文武に優れ、女性を一切寄せ付けずニコリとも笑わない侯爵家の息子。宴では砂糖菓子にたかる蟻のように女性たちが彼のまわりに集まっていたけれど、氷壁の小侯爵は氷壁らしく冷たい態度であしらっていた。 多少顔が良くてもあんな男に嫁ぎたいという女の気が知れない。この軟禁生活もあの男との結婚生活に比べればマシなはずだった。そばにいる夫に冷たくされるより、最初から誰もいない方が寂しさを感じないでいられる。 離れでの生活は退屈だったけれど、本邸で家族と暮らしていた時より心は穏やかだった。意地悪な双子と顔を合わせないで済むし、双子を甘やかす両親に苛々しなくてもいい。
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