十六歳の誕生日の夜

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英雄ハリー・クラウスとその三男テオ・ウィリアムズ。父は家族がこの広間に集まるたび二人の祖先の話をわたしたちに語って聞かせた。それは今夜も始まるようだ。 「むかし、この辺りにはイブナリア王国があった。二百年前の戦争で帝国の領土となったが、そのとき武功を立てた帝国騎士ハリーがクラウス侯爵家の始祖だ。平民だった彼はクラウスの姓と侯爵の爵位、そして旧イブナリア王国領をグブリア皇帝から与えられ初代クラウス侯爵となった」 「その話は聞き飽きたよ、父さん」 双子の一人アレンが言い、父親の口調をまねて話を続ける。 「我がウィリアムズ家の始祖は英雄ハリー・クラウスの三男テオ。グブリア皇帝からウィリアムズの姓とともに『緑士』という爵位を授かった。しかし、『緑士』という爵位の存在は誰にも秘密。だから、父さんはウィリアムズ緑士じゃなくてウィリアムズ男爵って名乗らないといけない」 「ぼくとアレンのどっちかがいつかウィリアム男爵を名乗るんだよね。本当はウィリアム緑士だけど」 双子のかたわれミランも話に加わった。横目でチラと母の様子をうかがうと、微笑ましそうに双子を見つめている。
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