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「つい昨日まで浮いた噂のひとつもなかった息子だ。いきなり紹介された相手が緑士家の令嬢であれば驚くのも仕方あるまい。二人が出会ったのが去年の夏だというのなら、氷壁の小侯爵のことだ。おそらく色々と手を回してあるのだろう?」
ザカリーはニッと笑う。父親相手に得意げな顔が彼を少し幼く見せた。
「シャーロットを緑士家から出す際に問題となるのは、彼女が〝黙秘の誓約〟ができないことです。黙秘が必要なのは緑士家の任務と魔術知識。ウィリアムズ緑士家の任務についてはクラウス家も知っていますが誓約は行いません。シャーロットもクラウス家に入るのであればそれについて黙秘の誓約をする必要はありません。もうひとつ、魔術知識についてですが」
ザカリーはテーブルに置かれていたベルをリンと鳴らした。扉が開いて「ご用でしょうか」と執事が顔を出す。
「ウィリアムズ家の家庭教師チャールズが会場にいるから呼んで来てくれ」
驚いてザカリーを見たけれど、彼はわたしの視線を微笑でやり過ごしコートの内ポケットから一枚の紙を取り出した。
「これは魔塔主様からの手紙です」
「魔塔主?」
侯爵様の眉間に皺が寄る。
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