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「別の理由が必要ですか?」
ザカリーの吐息が首元をくすぐった。
「シャーロットは氷壁のようだ。冷たいようであたたかい」
「氷壁はザカリー様でしょう?」
「わたしが氷壁だというのならその手で触ればいい。それがシャーロットの望みだろう?」
「そのような戯言を」
今夜この男に抱かれるのだろうと覚悟したけれど、ザカリーの手はわたしの左肩ばかりをさすっていた。いたわるような手つきのせいか昂っていた神経が落ち着いてくる。
「緑士の爵位は廃止の方向で進むだろう。おそらくシャーロットの父上はウィリアムズ男爵を名乗り続けることが許される。双子は魔塔に入れられ、男爵が亡くなれば爵位返上。ウィリアムズ家そのものがなくなる」
「そうですか」
「寂しいか」と問われ、わたしは首を振った。
「わたしにとっての家族は侍女のソフィアとチャーリー先生だけでした。チャーリー先生はもとより、ソフィアもウィリアムズ家を捨てて魔塔に行くようです」
もう一度「寂しいか」と問われ、今度はうなずいた。
「この窓からは氷壁が見えません」
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