約束を果たすための別の理由

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「いずれ手の届く距離で氷壁を見せてやる。その約束を果たし終えたら、わたしはシャーロットの体を望むだろう。そのときは先ほど言ったのとは別の理由(・・・・)で応えて欲しいものだ」 胸のあたりにポッと熱が灯ったような感覚があった。これはオーラでも魔力でもない。相手を惹きつけて心に熱を注ぐ、ザカリーだけが持つ厄介な力。 いつだったか、クラウス侯爵家の始祖ハリー・クラウスについてチャーリー先生から聞いたことがある。 ――イブナリア王国に進軍したグブリア帝国軍は王宮に攻め入り王族を根絶やしにしました。イブナリア王直属の魔術師だった魔塔主様は降伏を決意し、帝国軍の兵士の一人にグブリア皇帝に宛てた書簡を託します。その兵士が初代クラウス侯爵、ハリー・クラウスです。彼は兵站部隊に所属する下っ端の衛生兵だったのですが、魔塔主様がハリーを選んだのは、彼が上官に隠れて敵味方問わず治療を行っていたからだとか。   この話は誰にも内緒ですよ、とチャーリー先生は言っていたから、きっとザカリーも侯爵家の人々も知らないだろう。ウィリアムズ家の緑士が始祖であるテオ・ウィリアムズの本当の姿を知らなかったように。
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