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チャーリー先生の話を思い出したのは、上官に隠れて自分の正義を守ろうとするハリー・クラウスと、父親である侯爵様に隠れて信念を貫こうとするザカリーの姿が重なって見えたからだ。
「ザク」
わたしはザカリーを振り返り、右手で彼のシャツを掴んで唇を重ねた。
「今はこの氷壁で満足しておきます。本物に触れるまでに別の理由ができるかどうかまだわかりませんが」
氷壁の策士にも不得意分野があるらしく、恥ずかしそうに顔を赤らめる貴公子に男女の駆け引きは無理そうだった。右手を彼の背に回すとぎこちなくわたしを抱きしめる。
アイスピッケルで壊さなくても、わたしを凍てつかせた氷は溶けてしまうのかもしれない。クラウス領は今日、春を迎えたのだから。
【氷壁の小公爵と隻腕令嬢の契約結婚】
――完――
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