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ラナ園の端には芝生の広場があり、テーブルにお茶とお菓子が準備されていた。侍女のスサンナがリアーナ様のために椅子を引き、サッと日傘をさしかける。リアーナ様は日傘を避けて振り返り、不思議そうに首をかしげた。
「デ・マン卿は怒っているの?」
ぼんやりした口調は幼子のようだ。
帝都を離れてからというもの、リアーナ様が記憶を失って子どもに戻ってしまったのではと思うことがある。もしそうなら、きっとその方が彼女にとっては幸せだ。けれど、彼女は記憶を失ってなどいない。
「怒ってなどおりません。今日はことさら陽射しが強いので殿下のお体を案じておりました」
「デ・マン卿、その呼び方はやめてちょうだいと言ったでしょう?」
リアーナ様を傷つけると知っていながらつい「殿下」と口にしてしまったのは辺境伯令嬢二人への対抗心からだ。
「申し訳ありません、リアーナ様」
「もうじき皇太子殿下との離婚手続きも終わるわ。わたしに〝殿下〟と呼ばれる資格なんてないのよ。まして皇太子殿下の従姉でいらっしゃるタミア様とソニア様がいらっしゃる前で」
「お気になさらず」
「リアーナ様はまだ皇太子妃ですから」
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