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リアーナ様は息をするのも忘れてしまったようにボウッとタミア様の口元を見つめていた。おそらくおれがいなくなるとは思いもしなかったのだろう。
帝都にいた頃の聡明な彼女であればすぐに分かったはずだが、あの事件以来リアーナ様は考えることをやめてしまった。これ以上傷つかないために。
「デ・マン卿はいなくなってしまうのね」
感情のないぼんやりした声。それが事実だと自分に言い聞かせるような言い方だった。
「リアーナ様、わたしは……」
ずっとそばにいます、と心の中で叫んだ。でもそれが叶わないことはわかっている。
「仕方ないわ。デ・マン卿がそばにいなくなるのは不安だけれど、どこかで生きてくれているならそれでいい。そうでしょう?」
かすかにほほ笑むリアーナ様のそばで、スサンナがこっそり目頭を押さえた。彼女が泣いているのはおれと別れるのが寂しいからではない。きっと、あの事件が頭を過ったからだ。
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