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ここに引っ越してきた当初、ずっと内陸部で暮らしていたおれは視界の右から左まで続く海原を見て言葉を失ったが、一週間も過ごせば見慣れた景色になった。それでも、すべてが茜に染まった海は格別だ。リアーナ様も馬車の小窓から海をながめている。
別荘管理人の話によると、地図にないあの島の存在も、そこへ向かう船も皇家とアルヘンソ家の極秘事項なのだという。これだけの秘密を知ってしまった一介の騎士が紫蘭騎士団を辞めたいなどと言ったら――。
「考え過ぎは老いの元だ」
タミア様の言葉を思い出し、おれが海に背を向けて別荘のある松林へと馬を進めたときだった。
ヒュ、と風を切る音がし、振り返るとリアーナ様の乗る馬車に火矢が刺さっている。
「敵襲だ!」
立て続けに火矢が馬車を襲ったが、車体に耐火魔術が付与されていると気づいた黒づくめの男たちが剣を手に姿を現した。
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