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霧の妖精と暗殺者
「標的は妖精だけだ! 騎士は構うな」
帝都に暮らしていた頃、皇太子妃でありながら病弱で滅多に社交の場に顔を出さず、たまに姿を見せても儚げにほほ笑んでいつの間にかいなくなってしまうリアーナ様のことを、貴族たちは〝霧の妖精〟と呼んでいた。
この場で彼女を「妖精」と呼ぶ黒ずくめの男たちはただの盗賊ではなく、皇太子妃を狙った暗殺者ということだ。
皇家とアルヘンソ家が抱える数々の秘密を知ったのはおれだけでなくリアーナ様も同じ。子爵家の三男坊より公爵家出身の皇太子妃の方が危険なのは間違いない。
黒ずくめは全部で五人。それに加えて火矢を放った射手が林の中にいる。
「馬を狙え!」
指示を出す男を目がけておれは馬を駆った。男の横っ面を蹄で足蹴にしてやったが、次の瞬間馬の尻に矢が刺さり馬上から投げ出される。おれは肩を地面に打ち付け、馬は昂奮して来た道を戻って行った。
腹を斬られた御者は血を流してグッタリしている。リアーナ様の護衛はおれ以外に三人。数では敵に劣っているが、三人とも皇太子殿下に認められた紫蘭騎士団員だ。
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