霧の妖精と暗殺者

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頭上から聞こえた女の声に気を取られたとき、カッ、カサッと何かがぶつかって落ちる音がした。おれが目にしたのは草むらの上の一本の矢。 「魔術師が護衛にいるなんて聞いてねえぞ」 黒い影がそう吐き捨てる。 「魔術師だと?」 「矢から守ってあげたんだから、わたしが魔力を使ったことは内緒ね」 マントを翻して地面に降り立った女は、カモシカのような身軽さで黒い影に接近すると躊躇いなく剣を振った。赤橙色の光が走り、弓を持っていた男の手は容赦なく斬り落とされる。林の中に絶叫が響いた。 女は剣をおさめ縄で敵の手足を拘束する。矢からおれを守ったのはあの女で間違いなさそうだが、魔術師ではなく帝国で認められていない魔剣士のようだった。どうせあの女も皇家かアルヘンソ家の〝秘密〟なのだろう。 ふと、リアーナ様は大丈夫だろうかと頭を過った。敵とはいえ間近で人が死んでいるのだ。馬車の中でガタガタ震えてはいないだろうか。幼馴染の死を思い出して泣いてはいないだろうか。そう思うと居ても立っても居られなくなった。
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