ウィリアムズ男爵家の地下牢

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 ジギタリスはチッと舌打ちし、ノードは魔法陣を維持したまま「ふむ」と声を漏らした。 「跡地でもそうでしたが、やはり封印拘束でも魔術発動が可能なようですね。さすがバンラード大公が目をかけるだけあります」 「結界解除は微量の魔力でも可能だ」  ジギタリスは煽るようにククッと笑う。 「そうですが、当てずっぽうでは解除できませんよ。さっきあなたが唱えた構文は出だしから間違っていました。しかも、完全解除するには一、二分では足りないことくらいわかっているでしょう? 余計なことをして拘束が強化されるとは思わないんですか?」 「ああ、言われてみればそうだ。頭がクラクラしてそこまで考えが及ばなかった。なんとも忌々しい魔力だ、この闇属性ってのは」   ジギタリスは格子の向こうにいるイヌエンジュをギロッと睨む。 「闇属性魔力なら数秒でその拘束を破壊できます。その際にあなたの体が無傷でいられるかどうかはわかりませんが、闇属性魔力を使わなかったということは、やはり公式は知らないようですね。モンリックヴィルの魔法具を見ればあなたなら解析できるはずなのに」 「言っただろう。おれは新種と魔法具には関与していない」 「つまり、共犯がいるのですね?」 「さあな。そっちの裏切り者が勝手におれの計画に便乗したんじゃないのか?」  ジギタリスの受け答えには余裕があった。浄化で体調が回復したからか、共犯者をあてにしているのか。 「ジギタリス。言っておきますがアルストロメリアにこの牢は開けられません。それに、彼女があなたを訪ねてここに来るとすれば、逃がすためではなく口封じでしょう」  ノードとジギタリスは睨み合い、無言の駆け引きは静寂の音が聞こえそうなほどだった。沈黙を破ったのはジギタリスのため息。 「アルストロメリアってのは魔塔支部長だろう? 魔塔主殿は部下に裏切られたのか?」 「彼女の関与を証言していただければ便宜を図りましょう。襲撃はアルストロメリアとの共謀だったと認めますか?」  ジギタリスは「いや」と首を横に振る。 「まだ頭が働きませんか? 彼女をかばっても何の得もありませんよ」 「証言のしようがない。女なのは確かだが名前は知らんしいつも顔を隠していた」 「声を聞いたでしょう? あなたが麻袋を被っていた時わたしに話しかけてきた女性です」 「似てはいたが断言はできん。女はただの連絡係だと思っていたし、たいして言葉は交わしていないからな。だが、お偉い魔塔支部長でも牢が開けれないなら助けを待つのは無駄なようだ」  
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