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支部長のアルストロメリアに開けられないなら、男爵の鍵がなければノード以外開けれないということだ。それとも初代支部長のウィローは暗証番号を知ってるのだろうか。彼はマナ石でノードに何を伝えたんだろう。
「連絡係というのはシドからの?」
「ああそうだ。おれはシドから跡地を混乱させるよう依頼を受けていた。魔獣と使役魔法を使ってな。時期は追って伝えると言われクラウス領に来たが、接触してきたのが魔術師の女だった。おれが王城に置いた紙きれは見つけたんだろう? 女はあれを持っておれに会いに来たんだ。緑眼の治癒師を探せという依頼もシドだが、女におれを特定させるためのものだったかもしれん」
ふむ、と声を漏らし、ノードは数秒思案した。
「先日、王城の結界を壊したのはジギタリスですか?」
「いや。あれは女からの合図だ。時期が来れば王宮で騒ぎを起こし、あの紙切れを魔塔主に見つけさせてシドの侵入を疑わせる。そうなれば王宮は封鎖され跡地から魔術師が回されるはずだから、王宮封鎖の翌日に跡地を襲えってさ」
状況からアルストロメリアを疑わざるを得ないけど、真面目な上に闇属性に批判的だった彼女がこんなことをするなんて。
「予想外にもあんたが跡地にいたから少々焦ったよ」
ジギタリスはニヤニヤ笑っている。
「わたしがいなくなった隙を狙ったのですね」
「魔塔主の気配はわかりやすいからな」
「紙切れと一緒に置いてあったマナ石もその女性魔術師が?」
「いや、あれはシドから治癒師を探すのに使えと渡されたものだ。あのマナ石を見せて反応があればそいつが探してるやつだと言われた。――が、紙切れと一緒にそのマナ石を置くようシドから指示があったと女が言うから、治癒師に見せたのは最初の何人かだけだ」
「シドが今どこにいるか知っていますか?」
「知らん」
「最後に会ったのは?」
質問攻めのノードがふとアルストロメリアと重なって見えた。
「シドに会ったのは一ヶ月半くらい前、今回の依頼を受けた時だ。最後の依頼になるかもしれんと言われたし、バルヒェットを出る直前、シドがどっかの帝国貴族に高額で雇われたって噂を聞いた」
「帝国内にいるということですか?」
「噂を信じればそうだろう。だが、噂を流したのがシドだとも考えられる。大公もあいつもそういうやり方をする」
なるほど、とノードはうなずく。バルヒェット事変のときの彼らのやり口も世論誘導だった。
「今回の襲撃に大公は関与しているのですか?」
「さあな。おれは二年前に大公にお払い箱にされたんだ。それ以来バルヒェットでハンター暮らしをしていたんだが、いい狩り場があると聞いて行ってみたらシドがいた」
「ルケーツク鉱山ですね」
「ああ。大公が本格的にバルヒェットに手を出し始めたとシドから聞いた。それでルケーツクでの狩りは諦めたんだが、シドに提案されてやつから個人的に仕事を受けるようになった。大公とは無関係の依頼だと言っていたが実際はどうかわからん。帝国貴族に関する調査依頼だった」
なんだか思ったよりディープな内容でノードの表情が険しくなった。ジギタリスが嘘をついているようには見えない。
「調査依頼された帝国貴族は?」
「フェルディーナ公爵家、ラサロ伯爵家、オーレンドルフ伯爵家、ルガース公爵家」
「皇妃と皇太子妃の出身家門ですね。他には?」
「麻薬で捕まったローナンド侯爵、オクレール男爵、直近では春ごろにライノー子爵を調べた」
「ライノー子爵?」
ライノー子爵と言えば蠢楼であたしが風邪をひかせた射撃手だ。そのあとバルヒェットから逃げようとしてヒョウ魔獣に襲われ、蠢桜の楼主に脅されていた。あたしがそれを教えるとノードは「ああ」とうなずく。
「シドがあなたに治癒師捜索と跡地襲撃を依頼したのはバルヒェット事変の後ですよね?」
「そうだ」
「モンリックヴィルに埋め込まれたマナ石とあの魔法具がアルストロメリアの仕業だとして、あなたはシドの指示だと思いますか?」
ジギタリスは質問の意図を探るようにノードを見た。
「わからんが、もしそうなら女の方から提案したんだろう。新種なんてバンラードには無関係だし、闇属性魔力のこともシドが知ったとすれば女経由だ。つまり、シドの指示だろうが女の独断だろうが、闇属性魔力で結界破壊を目論んだのは魔塔主殿の部下だってことだ」
ジギタリスは口元に嘲笑を浮かべたけど、ノードは表情を変えない。
「ジギタリス。あなたは新種と魔法具について何も知らされずあの場にいた時点で捨て駒だったということです。シドに切り捨てられたのか、名も知らぬ女に騙されたのかでずいぶん違うでしょう?」
「アッハハ、確かにそうだ」
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