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「その魔塔主はいま殿下と会ってるわけだし」
「殿下が出かけたのはもうずいぶん前の話だ」
「えっ? そうなの。じゃあ、おれもそろそろ石榴宮に行かなきゃ」
スクルースは慌てた様子で執務室の窓辺に駆け寄っていく。皇帝陛下にさえおれたちの正体は秘密にされているというのに、慣れのせいかこの男は少々油断しがちだ。獣人騎士の中でもっとも頻繁に姿を変えるくせに、そのせいで危機感が薄れている。
「獣人だとバレるなよ」
「鳥人だってば。だいたい、皇女様の宮にはまとな騎士もいないのに、よっぽどヘマしない限りバレたりしないよ。魔塔主だけ注意すればいいから全然余裕」
「お前がヘマしそうだから言ってるんだ。皇女様にも注意しろ」
「でも、本当に皇女様はおれに気づいてたのかな」
どうやらまだ半信半疑のようだが、「殿下がそう言っていた」とおれが言うと、観念したように「わかったよ」と青い髪を揺らしてうなずいた。
「じゃあ行ってくる」
スクルースは自ら窓を開け、青空のような色をした小鳥の姿になると、吸い込まれるように空へと羽ばたいていく。窓を閉めるのはだいたいおれの役割だ。
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