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執務室のこの窓に映るのは木々と空、中の様子を外から盗み見られる心配はほぼない。だが、
「油断はよくない」おれは一人ごちる。
この三年、魔塔主の「主君を盲信するだけの犬にはならないように」という言葉が時おり頭を過る。政務と暗殺の回避、そんな日々に追われて胸にある主君への忠義が〝盲信〟ではないと否定できなくなることが怖い。
一人で辺境地をウロウロしていた頃のことが懐かしい。だが戻りたいかと問われれば即座に首を振るだろう。二十数年かけてようやく見つけた主君だ。彼にはこれからも生きていてもらわなければ困る。たとえ、いいように使われているだけなのだとしても。
「ユーリックの犬、か」
先日平民街で出会った魔術師。シドという名前らしいが、行方はまだ見つかっていない。その男がおれのことをそう言っていた。バカにしたつもりなのだろうが、
「まあ、悪くない」
つぶやいたとき、勢いよく執務室のドアが開けられた。
「事件の報告書はまとめたか?」
「こちらに」
「行くぞ、ランド」
「はい、殿下」
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