三年後

4/5
18人が本棚に入れています
本棚に追加
/3000ページ
執務室のこの窓に映るのは木々と空、中の様子を外から盗み見られる心配はほぼない。だが、 「油断はよくない」おれは一人ごちる。 この三年、魔塔主の「主君を盲信するだけの犬にはならないように」という言葉が時おり頭を過る。政務と暗殺の回避、そんな日々に追われて胸にある主君への忠義が〝盲信〟ではないと否定できなくなることが怖い。 一人で辺境地をウロウロしていた頃のことが懐かしい。だが戻りたいかと問われれば即座に首を振るだろう。二十数年かけてようやく見つけた主君だ。彼にはこれからも生きていてもらわなければ困る。たとえ、いいように使われているだけなのだとしても。 「ユーリックの犬、か」 先日平民街で出会った魔術師。シドという名前らしいが、行方はまだ見つかっていない。その男がおれのことをそう言っていた。バカにしたつもりなのだろうが、 「まあ、悪くない」 つぶやいたとき、勢いよく執務室のドアが開けられた。 「事件の報告書はまとめたか?」 「こちらに」 「行くぞ、ランド」 「はい、殿下」
/3000ページ

最初のコメントを投稿しよう!