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あの釘はきっとあれだ、あの〝キューピッドの矢〟みたいなやつ。あなたのハートを射止めちゃう的な。なんてジゼルに話したら「呪いだろ」と一蹴されそうだけど。
「殿下が何を考えてるのか分からない」とナリッサは悩まし気につぶやく。
「ノードも何考えてるか分からない」あたしが便乗して言う。そのときコンコンとノックの音がした。
「ナリッサ様、ゾエです」
女性にしては低めの声がドアの向こうから聞こえた。ゾエって誰だっけ、とあたしは頭の中で昔読んだ小説のページをめくる。
「そういえば今日はダンスの時間を早めたんだったわ。すっかり忘れてた」
ナリッサが言い訳するようにノードを見ると、彼はお構いなくとでも言うように右手でドアを指す。こういう優雅な仕草は、イブナリア時代に身に付けたものなのだろうか、それともグブリア皇家の下に入ってからだろうか。
「入って」
ナリッサの声に応じるようにドアが開いた。姿を見せた小柄な女性はふとノードに目をとめ、日本でよく目にする、両手を重ねて頭を下げるお辞儀をする。
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