ダンスレッスンと公爵家からの手紙

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広間からは石榴の庭園が見えていた。 ついさっき、庭園からバルコニーを見上げたときは一階に臙脂色のカーテンが引かれていたけれど、今は金色のタッセルでゆったりと留められ窓も開け放たれている。広間から直接庭園に降りられるようだった。 ナリッサの寝室とは違い、広間の窓は瓶底をいくつも並べたような不透明なガラス。これならモザイク処理されているのと同じだから、二階の寝室もこのガラスにすべきじゃないかと思ったけれど、覗き見できないと小説的に都合が悪いのかもしれない。 そんなことを考えながら二階のバルコニーの前までふらっと飛んで、ふと地面を見下ろしたら広間からノードが顔を出していた。 窓枠に手をかけ、空を仰ぐようにあたしを見上げるノード。彼の髪がシャンプーのCMみたいに優雅になびいて、片方の耳でピアスがキラッと光った。 ――サ・ラ と、彼の唇が無音のまま動いた。 逃亡したと思われたのか、心配で見に来たのか。彼の笑顔は明らかにあたしを牽制しているけれど、そんなの関係なくあたしの胸はドキッと跳ねる。だって、広間にいる人たちには内緒の二人だけのやりとり。 「ノード」 なんとなく名前を呼んだ。
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