「リンドバーグ子爵令息、婚約破棄される」の巻

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「この場であなたとの婚約を破棄します」 大広間中央の階段途中で足をとめ、虫ケラを見るような眼差しをこちらに寄越す男と女。 広間に流れるワルツなどもう誰も耳を傾けておらず、刺激を求めるうら若い令嬢令息たちは遠巻きに事態の行方を見守っている。 「何かおっしゃりたいことが?」 いかにも貴族的な皮肉交じりの冷笑でのたまうのはジョージ・ファイアストン。偉そうにしているが、たかだか男爵家の息子だ。その隣に寄り添うのはオリビア・フォスター侯爵令嬢。さっきおれに婚約破棄を言い渡した女。 「ファイアストン卿、わたしは大人しく身を引きます。どうかオリビアと幸せになって下さい」 「ゼン。もう婚約者ではないのですから、オリビアなどと親しげに呼ばないでいただけますか?」 そう言うオリビアは今おれのことを「ゼン」と名前で呼んだのだが、彼女が自分のことを棚上げにするのは日常茶飯事だ。今ここで揚げ足をとったりしたら、婚約破棄どころかそれを通り越して我が家門にどんな嫌がらせをしてくるかわからない。
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