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「いえっ、あの、フォスター侯爵令嬢とファイアストン卿の仲睦まじい姿はまわりの人を幸せな気分にさせると言いますか、……そうですよね、みなさん!」
「あら、そう?」
オリビアのご機嫌を損ねてとばっちりが来るのを恐れたのか、ババを引いた先輩たちが密かに拍手をする。目立たないようテーブルの陰や人の背後で拍手する様はさすがとしかいいようがない。ここで目をつけられようものならまたババを引く羽目になるかもしれないのだ。
最初の拍手があればあとは勝手に広まる。楽団員も演奏を止めて手を叩き、侯爵令嬢はご満悦の様子。だがおれはまだヒヤヒヤしている。彼女の目がジョージ・ファイアストンではなくおれを見ているからだ。あれはSモードスイッチがONになった目。まあ、OFFになる方が稀なのだが。
「ゼン、あなたあっさり婚約破棄を受け入れたけれど、どうして破棄されたか分かっているの?」
「わっ、わたしの魔力が……ないからでしょうか」
おれが消え入りそうな声で言うと、まわりの貴族たちからはクスクスと笑い声がおこる。
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