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「違うわ。あなたと話しててもつまらないのよ。魔力がないくせに魔術の蘊蓄ばかり。そのうえ理屈っぽい。魔術はもっと感覚的なものよ。そう、恋の炎が燃え上がるみたいに」
オリビアは蕾が開くように右手をパッと広げ、その手のひらの上に火の玉が現れた。魔力コントロールを覚えた子どもが最初に練習する日用魔法にも関わらず、広間からは拍手が湧きおこる。
「美しい炎です」
ジョージ・ファイアストンが言った。恋は盲目というやつだ。オリビアは彼の前ではまだ猫をかぶっているのだろう。かぶった猫を脱ぎ捨てるのはおれが国外逃亡してからにしてほしいが、とりあえず恥を忍んで魔力のなさをアピールし、完全に興味を失ってもらうのが得策。
「火も点けられないわたしは火打ち石以下。また風魔法で侯爵令嬢に涼んでいただくことも、水魔法で喉を潤していただくこともできません。庭に転がる石ころのようなものです」
「あなたのお父様のリンドバーグ子爵様はすばらしい魔術師なのに、どうしてあなたみたいな人を養子にしたのかしら。婚約したらその理由がわかるかと思ったけど、まったくわからなかったわ」
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