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 それから何度か、千佳子は式の打ち合わせのためホテルへやってきているようだった。  婚約者の男性は忙しいのか、まだ一度も姿を見せていない。  正史が忘れ物を届けにフロントに立ち寄る際、ガラス張りのウェイティングルームで千佳子とウエディングプランナーの女性と大樹の三人で話し合っているのをときどき見かけた。  ガラス越しに見る大樹は、先日の夜の嫉妬が嘘みたいに千佳子と穏やかな笑顔で対面していた。  向かい合って楽しそうに会話する大樹と千佳子を見ていると、胸の奥がもやもやしたもので埋まっていく。 「なんでそんなに笑うの……」  ふと呟いてしまった一言に、正史は愕然とした。  好きな人が自分以外の誰かに笑いかけるのが許せないなんて、狭量すぎないか。  しかもその相手は元恋人で、二か月前は彼女に振られて死ぬつもりでいたのだから、もう何が何だかわからない。  一瞬でもそんなみっともない考えを抱いてしまって、正史は恥ずかしさで赤く染まった頬を隠すように俯きながら、速足で階段を駆け上がった。
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