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 由井(ゆい)正史(まさふみ)は朝、飛行機を降りてからずっと歩き続けていた。  亜熱帯の島に降り注ぐ夏の陽射しは、正史の体をじわじわと痛めつけた。  雪のように白いうなじは日焼けの炎症で赤く染まり、ビジネススーツに包まれた痩せぎすの体は、慣れない暑さでときおりふらりとよろけた。  だが疲労は暑さのせいだけではない。  昨日の昼、サンドイッチを少しかじっただけで、そのあと食事をとっていないせいもあった。  水分補給は機内でひとくち飲んだオレンジジュースだけ。もうくたくただった。  でも、そんなことは正史にとってどうだっていいことだった。  これから死ぬ人間が、体調の不良を気にするわけがない。  人のいないほうへ、いないほうへと、ただひたすらに歩を進める。  脇目も振らず、意固地になって前進するだけの正史に根負けしたのか、太陽もついに陰り始めていた。  林の中の金網フェンスの破れをくぐり、整備されていないススキ野原を手でかきわけ通り抜けたところで、突如、視界がひらけた。 「う、わぁ……」  ターコイズブルーに浮かぶオレンジの夕日にしばし目を奪われる。  ついさっきまで敵だった太陽が、海に抱かれてすっかり棘を落としていた。
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