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「彼女、ホテルで結婚式を挙げるんだって、言ってました」
おめでたいですね、と同意を求めてみるも、大樹は正史に同調せず、ただじっと強い眼差しで見つめてくるだけだ。
二か月前に振られた元恋人だと話してもかまわないのだが、嫉妬などされた経験がない正史にとって、これ以上強烈な感情をぶつけられることには耐えられそうになかった。
大樹が黙って立ち上がる。
近づいてくるあいだも視線は一度も正史から外されない。
恐怖に似た感情と、それとは正反対にあるようなくすぐったい甘やかさが胸の中に混在している。
目の前にやってきた大樹に無言で手をとられても、正史は光る目から目を離すことができなかった。
大樹に触れられるたびに自分の気持ちは明確になっていく。
千佳子に再会しても心はまったく揺れなかった。
気持ちは日に日に重みを増して、大樹へと傾いていることを自覚させられた。
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