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 嫉妬という感情は、愛情から生まれるものなのだろうか。  千佳子と交際していた頃は、互いに嫉妬することなどなく淡々と過ごしていたし、他の誰からもこんなあからさまで複雑な感情をぶつけられたことはない。  恋愛経験も人間関係も乏しい正史にとって、嫉妬心は抱いたことも抱かれたこともない未知の感情だった。 「そうか」  静かにそう言うと、大樹は握った正史の手を持ち上げ、その甲にそっと口づけた。  触れた唇は、風呂上がりの自分の体温よりずっと温かかった。
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