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 昨日のスイートルームの宿泊客から、ピアスの落し物が無かったかとホテルに連絡が入っていた。  剥がしたリネンと使用した掃除機の中身をチェックし、部屋の中を隈なく探した。  排水溝にベッドの下、冷蔵庫の中まで。  最後にバルコニーに出たところで、すみっこに光る物を見つけた。 「あった」  小さなピアスを拾い、立ち上がったところでなにげなく手すりから覗きこんだ真下、ホテルの前の道路にタクシーが止まっていた。  その前で会話をする男女がいる。  それは大樹と千佳子だった。  式の打ち合わせが終わって、大樹が千佳子を見送るところなのだろう。  二人の姿を見たら、ついさっき抱いた醜い感情がよみがえってきた。  気まずさと情けなさを持て余しつつも、どこかお似合いの二人を見ていたくなくて、への字口になりながら手すりから離れようとしたとき、大樹と千佳子の距離がぐっと近くなって、正史の動きかけた体はその場で固まった。  二人が顔を近づけて、なにかを話している。  だけど三階にいる正史の耳には、波の音は届いても地上の会話は聞こえてこない。  目をこらしてじっと二人を見つめていると、千佳子がおもむろに薬指にはめていた大きなダイヤモンドの婚約指輪を外した。
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