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 正史は気づくと手すりに身を乗りだしていた。  すると大樹が、千佳子の空いた左手薬指に別のシンプルな指輪をはめた。  そして新たな指輪がはまった指を二人して確認するように眺め、しばらくするとまた元の豪華な婚約指輪に戻された。 「え……」  大樹が千佳子の肩を何度か緩く叩いた。  彼女の表情までは確認できなかったが、口元を両手で覆っている。  それは感動したときや驚いたときの千佳子の癖だった。  付き合っていたころ、彼女のことをよく観察していたからわかる。  その後しばらくして、タクシーに乗りこんだ千佳子を見送った大樹は、ゆったりした足どりでホテルの中へ入っていった。  正史はふらふらした足どりで備えつけのガーデンチェアに腰かけ、混乱する頭を抱えた。 「なに……? 今の」  あの指輪は、いったいなんなんだ?  結婚を直前に控えた千佳子が、婚約指輪を外してまで薬指にはめた指輪。  考えるまでもなく思いついたのは結婚指輪だ。  サイズの確認のために事前にはめてみた。  そう考えると合点がいく。  でももしそうなのだとしたら、なぜ大樹が千佳子と婚約者の結婚指輪を持っているのだろう。
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