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『蛍の君』、とは、昔まだ弥生が子供の頃、お祭りの帰りに手を繋いで歩いた相手
当時兄が友達とお祭りに行くと聞いて『一緒に行きたい!!』と駄々をこねる弥生に、兄の友達が『僕が一緒に歩くよ』と言って嫌がる兄を説き伏せてくれた
だけど5つも年上の兄も他の数名の友達も歩くのが早くてずっと早足で歩かなきゃいけないし、下駄の鼻緒が当たって痛いしで、帰る頃には弥生は半べそをかいていた
途中兄の背中が見えなくなって不安になる
だけど兄の友達は決して手を離さずに、弥生を急かすこともしなかった
それどころか兄に付いていくのに必死で楽しみにしていた出店に寄る余裕がない弥生に、
「ちょっと寄り道しよう」
と言って綿あめやチョコバナナを買ってくれて、嬉しくて足の痛みも我慢できた
帰り道、遠くに聞こえるお囃子に楽しかった時間の終わりを告げられているようで気落ちする弥生に、兄の友達が
「蛍」
とつぶやいた
言われた方を見ると確かに、小さな黄緑色が点滅している
「知ってる?蛍ってこうやると一緒に光るんだよ」
兄の友達が持っていた懐中電灯をチカチカと点滅させると、さっきとは別の場所から一つ、また一つと小さな黄緑色が同じリズムで光り始める
「すごい」
弥生はしばらくその場から動けなくなってしまった
その人は田んぼに囲まれた暗い夜道に行き交う蛍を避けながら慣れない下駄でよろよろ歩く弥生に、「慌てなくていいよ」と優しく声をかけながら手を握ってくれた
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