とある男女の交差と終焉

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 歳は四十代に見えた。黒い背広を着ていて、真っ白い部屋の中で浮いている。まるでシーツに溢した墨汁のシミのようだ。  今は座っているので分からないが、訪問した時の感じだと背は私と同じくらい。男性にしては小柄である。女のような背丈で草臥れた空気を纏っているので、頼りない印象を与えた。  一方、彼──鶴城は三十代で、正面の男性と比べて若々しい。糊のきいたシャツや、アイロン掛けされたスラックスのせいだろうか。胡乱な表情の男性に対し、柔和な笑顔を浮かべていることも、鶴城の快活とした雰囲気を作っているのかもしれない。  男性は花の香りに咽せたのか、コホンと咳払いをした。 「鶴城さん、では、中野未世子さんが行方不明なのは間違いだと、こう言うんですね?」  上目遣いに鶴城を窺う。どうにも卑屈な感じだった。 「そうですよ。貴方もおかしなことを言うなあ。恋人がいなくなったら、僕が最初に気付きますよ。というより、気付かない訳がない。だって、僕達は一緒に暮らしているんですから」  鶴城は愛想良く笑いかける。 「貴方は骨折り損をしたということですよ、探偵さん」  そう。所在なさげにしているこの男性は私立探偵だった。玄関口で名刺を差し出した時は、現実にいるんだと妙に感心してしまった。彼は行方不明となっている私を探すために雇われたのだという。 「ああ、ひょっとして未世子は、同棲している事を話していなかったのかな? それで家出だと勘違いされてしまったのか。まったく、彼女のうっかりにも困ったものだ」
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