家族という名の

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家族という名の

郊外の住宅地から特急に乗れば、15分で 西日本最大のターミナル駅に到着する。 いつもは、あたふたと家事と身支度を整え、 ママ友とのランチ会や買い物に訪れている繁華街。 昼間の賑わいには、微塵も妖しい影は見当たらない。 私達の話題は専ら、身につけている洋服やバッグの お披露目に始まり、他のママ友に関する噂話や 最近の芸能人のゴシップまで、喋れば喋るほど、 話題は止めどなく溢れてきて、 紅茶で喉を潤しながら、私達はお喋りに興じた。 どこから見ても、そこそこ恵まれた主婦の生態を 皆、演じている。 演じて信じるという方法で、望むものを手にし、 行けるところまで行く所存なのだ。 家族という名の他人に期待してマネージメントする、 それが専業主婦という立場で、 世の中の移り変わりは激しく、外に仕事を持たない 女はなんだか昨今、肩身が狭い。 「寿退社」という言葉がまだ、光り輝いていた頃を 懐かしく恨めしく、思い出すこともある。 もちろんのこと「結婚」に希望を見出し、 結婚生活にまつわる全般に、真面目に前向きに 取り組めば得られると、信じて疑わなかった、 あの頃。 時を経た今、幸せの感触はいつの間にか、 消え入りそうに希薄である。 仲間内の先陣を切って、 華々しく、某ラグジュアリー系ホテルで 挙式と披露宴を催したのは、若葉の美しい季節 だったが、あれから周りで何組ものカップルが 同じように誕生し、子供を設けたが、 今、何組がその形を留めているのだろうか、と 数えてみると、ふと暗澹とする気分になった。 この障害物競走は、実に侮れない。 ごく小さな世界で、まあまあの勝ち組と 鼻を高くしていた私も、ご多聞に漏れず、 後半のカーブに差し掛かったところで、どうやら 激しく転けて、膝をきつく擦りむいたような 痛みの感触を抱えている。
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