夜の向こう側

1/1

9人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ

夜の向こう側

夜が明けた。 その朝、彼とは地下鉄のドアを挟んで、 見つめ合いつつ、別れた。 昨夜は、シーシャバーを出てからまた、 タクシーを拾い、彼の取ったホテルの前で降りた。 信号を渡って入った、向かい側のコンビニの 店内で、私の耳に吹き込まれた彼の囁きを 地下鉄の車内で、うっとりと思い出している。 そして、ホテルの一室で行われた情熱的なことも、 全てがそうなって欲しいという希望通り、 進められたのだった。 彼も、誰かの助けを必要としていたのだと思う。 私は、特別な夜の冒険から、どうにか 生還したらしい。 なんだか付き物が落ちたように、 ふっと肩が軽くなっている気がする。 それは肉体的な欲求が満たされたというだけでも なく、それに今後のことは、何だか 勝手に心が決めているのだ。 車内の吊り広告を見ながら、 彼が、地元に帰るのは夕方頃になると 言っていたのを思い出し、その頃、 私の気持ちを伝える為に、メールをしようと思った。 これは、5年前に遡った、 私と彼の出会いのエピソードだ。                       了
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加