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夜の向こう側
夜が明けた。
その朝、彼とは地下鉄のドアを挟んで、
見つめ合いつつ、別れた。
昨夜は、シーシャバーを出てからまた、
タクシーを拾い、彼の取ったホテルの前で降りた。
信号を渡って入った、向かい側のコンビニの
店内で、私の耳に吹き込まれた彼の囁きを
地下鉄の車内で、うっとりと思い出している。
そして、ホテルの一室で行われた情熱的なことも、
全てがそうなって欲しいという希望通り、
進められたのだった。
彼も、誰かの助けを必要としていたのだと思う。
私は、特別な夜の冒険から、どうにか
生還したらしい。
なんだか付き物が落ちたように、
ふっと肩が軽くなっている気がする。
それは肉体的な欲求が満たされたというだけでも
なく、それに今後のことは、何だか
勝手に心が決めているのだ。
車内の吊り広告を見ながら、
彼が、地元に帰るのは夕方頃になると
言っていたのを思い出し、その頃、
私の気持ちを伝える為に、メールをしようと思った。
これは、5年前に遡った、
私と彼の出会いのエピソードだ。
了
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