プロローグ

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SNSを通じて、識り合った私と彼だ。 暇つぶしに始めてみた私のブログに、ある日 彼が「いいね」をくれたのが始まりで、 私も即座に「いいね」を返して交流が始まった。 彼は、いわゆる「意識高い系」の考え方を 発信する人だったが、チャラチャラ人集めをする風 でもなく、理論派なイメージだった。 そのうち、ダイレクトメールを交わすようになった。 冗談のように、 「貴女は変わろうとしているんですね?」 「そうかもしれません」 「僕は貴女に必要な処方箋、持っていますよ」 「是非お願いします」と答えて、思い切って ♡(ハート)の絵文字を付けた。 不謹慎だという自覚は、薄っすらとしたまま、 コトは進んで行くのだった。 刺激は、更なる刺激を煽って、 日毎に大胆になるのが、更に刺激的なのだと 知った。 アプリを使って、思わせぶりな写真を作成した。 顎先が少しだけ覗く首から肩の肌を 露出した写真。 デコルテは、まだ痩せ細ってはいない、 フィルターをかければ尚更、肌は美しくなる。 与えるだけではダメだと思い、 代わりに、貴方の手を見せて欲しいとリクエストし、写真を送信した。 まもなく彼も、自分の手の写真を送ってきたので、 コレはもう脈があるということなんだと、 確信する。 顔を知らない他人と、会う約束を取り交わすに至る という状況は、凄く新鮮な気持ちを呼び覚ました。 冴えない日常でのストレスが 軽減されたかのように黙々と家事もこなせて、 自分が自分をコントロールしている感じが、 心地良かった。 焦燥感がピークを迎えそうな曲線と、ここ数日は、 内なる密かな興奮の為に、 食欲の曲線はカーブを描いて落ちていて、 その接点が、今日と言う日だった。 下着は、肌と同じ色のサテン生地のを選んだ。 クローゼットの中でハンガーに吊るして 用意していた。 コバルトブルー色の袖の無いワンピースも、 私の味方になるつもりらしい。 スルリと美しくコーデが決まって、それが 何より嬉しかった、 髪色とドレスの色が最高にマッチしている。 今日という日を絶対、無駄にするべきじゃない。 私は鏡に映る自分に向かって、 言い聞かせるように呟いた。 「いいのよ、今夜だけは、家族なんか忘れるの」
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