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三
近くの叢(くさむら)に身を潜めていた新三郎は、轟音と共に家が吹き飛ぶのを見た。
涙を拭い叢から立ち上がり、刀の柄を強く握りしめる。
―父上の想いを無駄にしてはならぬ―
新三郎は政府軍の追っ手を逃れて、駿府の旗本仲間の家に向かった。そこで改めて父から譲り受けた錦の袋を開けてみた。
中には十数枚の美濃紙を綴じた書類が入っていた。
彰義隊の活動資金としての細かい経緯とその数量が書いてあり、
その量は一両小判一万両、二分金五千両、金地金十三貫、銀地金四十貫と莫大なものであった。最後の紙に絵地図が描かれており、奇妙な記号が上に書かれていた。
御行の松が中央に描かれており、これを基点とすることは判ったが、肝心の記号の意味がまるで判らない。新三郎は懸命に頭を働かせ解読に努めたが、場所の特定がどうしても出来ない。
旗本仲間の家に五年程潜伏した後に、江戸改め東京となった根岸に戻る。
「此れは……」
戻ってみて愕然とした。かっての場所には新しい家が立ち並び往時の面影は何処にも無かったのだ。根岸の地に行けば何とかなるかもしれないと思っていた彼の気持ちは見事に裏切られる。
それでも新三郎は諦めず周辺の探索を続けたが、遂にその思いは叶わず明治三十年に根岸のあばら家でその生涯を終えた。
時は流れ、幾人かの手に絵地図は渡り、彼等はそれを基に埋蔵金探しに挑んだが見つからず、彰義隊の無念の想いと共に宝はこの地に眠り続けている。
了
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