お行の松と彰義隊の埋蔵金

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 ここはどの辺りだろう。暗くなりつつある辺りを見回し記憶を辿る。ここは恐らく谷中の端だ。思ったよりも上野から離れていない。横の父を見やる。これ以上無理をさせては危険だ。兎に角休める所を探さなくては……  少し先に人家が見えた。一か八かあの家に行くことに決める。 「父上、この先に人家があります。あそこで休ませてもらいましょう」  新右衛門は声を出す力もないのか、無言で頷いた。 「御免」  板戸の前で声を張り上げたが返事はない。   戸を引き開ける。中は無人であった。戦火に巻き込まれる前に家人が逃げ出してしまったのだろう。囲炉裏の前まで父を連れていく。肩に受けた銃弾は思いのほか重傷のようだ。幸い台所に水瓶があったので茶碗で水を注ぐ。 「水です。ゆっくり飲んで」  言いながら水を飲ませる。美味そうに水を飲み干し新右衛門は息を吐いた。 「新三郎、お主に話しておかねばならぬことがある」 「父上が良くなりましたら聞きます」 「それでは遅い。今、聞いて貰う」  新三郎の手を固く握り新右衛門は話し続ける。
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