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「儂は彰義隊が結成された時に、天野様から隊の活動資金の管理保管を託された。儂はある場所にそれを隠しておる。その場所がこれに」
新三郎は己の懐に手を入れ、中から錦の巾着袋を取り出す。
「書いてある。万一、政府の連中に渡ってしまった時の用心の為、場所そのものは示しておらぬ。お行の松じゃ。お行の松を基点として考えよ。さすれば判る筈じゃ」
苦し気な息の中で、それだけ言い終えた新右衛門は安堵したように、
「これで思い残すことはない。新三郎、後は頼んだぞ」
「父上、何を気弱なことを申される。まだまだ奴らとの戦いはこれからでは御座らぬか。お気を確かに」
新三郎の目に涙が零れる。それが気休めに過ぎないことが判っていたからだ。
その時、外から声が聞こえてきた。
「声の様な音が聞こえました」
「踏み込むか」
複数の声。恐らく政府軍の連中だ。
「父上、見つかったようで御座います。ここから出ますぞ」
立たせる為、肩を貸そうとした新三郎に新右衛門は静かに言った。
「儂はもう動けぬ。お主一人で行くのじゃ」
「父上!」
「裏手から逃れよ。音を立てるでないぞ」
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