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新三郎は暫く黙り込む。やがて意を決する様に言った。
「判りました。行きます」
「達者でな」
新三郎は振り返らなかった。
ガタガタと戸を外す音がして、五人の男が家に入って来た。
肩には錦切れが付けてある。政府軍の兵士である。
彼等は直ぐに囲炉裏端にいる新右衛門を見つけた。
大股で近づく。
「爺、お前一人か」
居丈高に聞く男に、
「そうだが」
「嘘を吐け、話声が聞こえたぞ。仲間は何処にいる!」
新右衛門はくすくす笑う。それが気に入らなかったのか先程の男が声を荒げた。
「何が可笑しい!」
「声は儂の念仏の声じゃろう」
聞いた男はせせら笑い、
「自分の為の念仏か。愁傷な心掛けだな」
「いやいや、そうではない。若くして死ぬお主らの為よ」
言いながら、横の布袋を取り上げる。
「何だ、それは」
「火薬じゃよ。鉄砲用にと持っておったが、こんな使い道があるとはな。捨てずに持っていて良かった」
聞いた男の顔色が変わる。大声で背後の男達に叫んだ。
「皆外に出ろ!」
「もう遅いわ、田舎侍共め」
袋を火の中に投げる。
ドォオオオオオ―ン!
轟音と共に家は四散した。
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