初恋の続き

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 あの頃は、ラブラブだった委員長カップルが大学1年生の春に別れて今はそれぞれ別の人と結婚したことを知ったのは美鈴が30歳になる歳の夏だった。  里帰り出産で久しぶりに地元に帰ってきたと言うはるが隣に座る3歳の娘にお子様セットに付いてくるおもちゃを選ばせながら言った。 「1年前に高校の同窓会があったから参加してみたらさ、小田君が他の同級生に息子の写真見せて話してたから私木嶋さんと結婚したのかと思って聞いてみたんだ」 「うん」  短い返事をして美鈴がコーラを飲むとはるは娘に幼児向けキャラクターがプリントされたヘアゴムを渡しながら言った。 「そしたらさ、なんて言ったと思う?大学1年の時に遠距離になってしまって別れてそれ以来会ってないって言ってて。もう本当びっくりしたー」 「へー」  適当な返事を返して美鈴はまたコーラを飲んだ。 「他の高校の同級生によれば、木嶋さんは小田君と別れてすぐに付き合った2歳年上の大学の先輩との間に子供ができちゃったみたいで一時期休学して2年くらい遅れて大学卒業して今は小さい会社の事務員をやってるとか」 「え?木嶋さんが?」  さっきまで嫉みで適当な返事を返していたけど、それには流石にびっくりした。木嶋さんの親は厳しいから小田君との交際も反対してたと昔聞いたことがあった。だからこそその木嶋さんが学生時代に子供を産んだなんて考えられなかった。 「まぁあの子、勉強はできてたけど親に言われて嫌々してた感じで本当は好きじゃなかったんだって。小田君は大手企業に就職してたけど」 「へー、そうなんだ」  やっぱり15年も経つと人間関係も変わってしまうようだった。  美鈴だって中3の冬に突然いなくなった翼にはあれから一度も会っていない。だから、夜のコンビニでアイスを食べる夢も叶えていないしあそこに限らず日本全国にあるであろう恋人の聖地にも行けてないしペアグッズも買えていない。  あの時は、嬉しくて仕方なかった占いの鑑定結果だってこの15年間の間に紛失してしまったから今はもう何が書いてあったのかは思い出せなかったしおじさんとの会話も忘れてしまった。 「で、美鈴はまだ彼氏いないの?」 「うん。いや、合コン?とかには何回か行ったことあるんだけどなんか好きにならなくてさ」 「それって、もしかしてまだ…」 「もう、そんな訳ないじゃん!翼のことなんかもう好きじゃないし!」  そう言って無理矢理笑みを浮かべて唐揚げを口に運んだ。  人前では、もう好きじゃないと口にするものの本当は15年経った今でもまだ彼のことが好きだった。あの日、伝えられなかった言葉が今も未練として残っていた。終わったのに終われなかった初恋。  はるはまだ何が言いたそうな顔をしていたけど娘にヘアゴムの袋を開けてと迫られて彼女の要求に応えていた。  中学生の頃、仲が良かった友達はみんな結婚したしもうそのほとんどが親になった。  いつまでも職を転々としながら生活している美鈴と違ってみんな嫌な仕事も頑張って続けているし時間も子供を中心に考えることが増えた。今日だって、はるに子供がいなかったらきっともっとオシャレなカフェに行ったに違いない。  でも、彼女が指定してきたのは美鈴が昔バイトしていたファミレスだった。子供がいたらやっぱり世界がその子中心になることは本当なようだった。  自由に生きている美鈴には想像がつかないけど、それが普通になってしまうのは少し面倒くさいように思えた。  それに不器用な美鈴は複数の子供の相手をすることなんて無理な気がする。  はるだけではなく、周りの友達はみんな2人以上の子供を育てることを希望していたし子供が複数にいる子も結構いた。  もし、仮に将来子供がいる未来があったとしても1人とじっくり向き合っていきたいと考える美鈴には彼女達が眩しくて仕方なかった。あんな器用なことしようとは思わないし愛情に偏りが出てしまう可能性だってありそうでそんなことしたくないのが本音だった。  そう思いながらはるを眺めていると、はるはルイボスティーを一口飲んで口を開いた。 「でも、まだ諦めてないんでしょ?」 「え」 「だって、美鈴ってすごい頑固だもん」 「そう?」 「うん。だって、完全には諦めてないでしょ?」  図星だった。  なんて返事をすればいいのか分からなくてこくりと頷いた美鈴にはるは「そのうち春がくるといいねぇ」とのんびりした口調で言った。  あの時、言えなかった言葉を伝えられる日はもうすぐそこまで来ているのかもしれない。
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