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初恋の続き
修学旅行の自由行動の旅行計画書には他のグループの子と同じように『観光して良い場所リスト』から観光地の名前を適当に書いて提出した。
きっと、今離れた場所で行動しているぐっち達は今頃その観光地を周っているところなのだろう。名物を食べたり、観光地に行ったりして彼女達の姿を思い浮かべながら美鈴はコピー用紙を片手に逆方向の道を歩いていた。
一応、自由行動の範囲内にいるとはいえ先生にバレたらこの計画は終わってしまう。
「この歓楽街を抜けたところか…」
1人で呟いてひと通りのない歓楽街入ろうとした途端、誰かに肩を叩かれた。
「ひっ」
びっくりして思わず声が出た。もし先生だったら全ての計画が台無しになってしまう。
そう思って走りだそうとした瞬間、今度はがじっと腕を掴まれた。
「美鈴待て、俺だって!」
「え?」
聞き慣れた声に振り向くと、さっき別れたはずの翼が立っていた。
なんだかんだ言って翼とは休みの日に会うことも多かったから私服はもう何度も見てきたはずなのに普段とは違う彼を見てドキッとする。考えていることが分かりやすいタイプだからバレたら顔が赤くなってないか心配になる。もし気持ちに気づかれていたらそれこそせっかくの計画が台無しになる。
「ぐっち達は?」
ストレートに「なんでここにいるの?」と聞いても良かったけどそれを言って自分の計画がバレるのも嫌で美鈴は敢えて質問の仕方を変えた。
「ぐっちに美鈴に着いて行けって言われたんだよ」
バツの悪そうな顔をしてそう言った翼と彼に着いていくように命令したぐっちにイライラする。言われるがまま自分に着いてきた翼はともかく、ぐっちは計画を知ってて彼に着いて行くように命令したに違いないことだけは確かだった。
「なんで?」
「俺が知るかよ」
「ぐっちに変わってもらえば良かったのに」
「ぐっちがお前に着いてくる訳ねーだろ」
そう言われてそういえば、ぐっちはどうしても行きたい飲食店があったんだっけ、と思う。
確か飲食スペースもあるケーキ屋のフルーツケーキだ。美鈴には普通のケーキにしか見えなかったけど、最近テレビでぐっちがハマっているコミカルな演技で人気の若手俳優が食レポをしていたらしく修学旅行の自由行動の範囲内にそのケーキ屋があると知った彼女はあのケーキ屋に行きたがっていた。
「ぐっち、今頃ケーキ食べてんのかな」
「食ってるんじゃねーの?」
翼は興味なさそうに返すと、美鈴が持っていたコピー用紙を勝手に奪った。
「え、ちょっと」
ヤバい、と思った時には翼がそのコピー用紙に目を通したあとだったらしく彼は面白くなさそう「ふーん」と呟いた。
「最低」
「だって、着いて行けって言われてもどこ行くのか分からねーし」
そう言うと、翼はコピー用紙片手に歩きだした。そんな彼の背中に美鈴はもう一度「最低」と呟いてみたが、彼が振り向くことはなかった。
「ぐっちめ…」
そう呟いて美鈴も歓楽街を歩く彼の後を追った。
生まれて初めて訪れた歓楽街は、テレビでしか見たことがないキャバクラやホストの看板がびっしりと並んでいた。多分、夜なら1人で歩けない。まだ中学生だし犯罪に巻き込まれてもおかしくない気がする。
きょろきょろと辺りを見渡しながら歩いていると、翼が派手な衣装を着たキャバ嬢の看板の方を見て言った。
「俺、高校卒業したらああいう美人なお姉さんに囲まれてみたいな」
「趣味悪すぎ」
「美鈴もホスト行きたいとか思ってんじゃねーの?」
「私、そういうの全然興味ないし」
そう返しながらなんでいつもこうなるんだろう、と思う。
翼とは何かの縁なのか仲良しな友達のなかでは唯一3年間同じクラスだった。好きな人と3年間同じクラスなのは恋する女子としてはやっぱり嬉しいけど、彼との関係は1年生の時から全く進展していなかった。1番仲の良い男友達に3年間片思いをする自分。
周りの友達には、喧嘩をする度に「痴話喧嘩」と言われるし先生には付き合っていると勘違いされることもよくある。だが、彼との実際の関係は所謂“友達以上恋人未満”の存在でこの3年間何の進展もなかった。
そんななかでたまたま耳にしたのが占いだった。バライティトーク番組でよく当たると占い師として紹介されていたのが修学旅行で訪れたこの県の占い師だった。すぐに予約が埋まってしまうことで有名なその占い師の予約をぐっちや他の女友達に協力してもらって予約を入れたのが1ヶ月前のことだった。
ぐっちや他の女友達が美鈴がどうしてそこまで本気で占い師に占ってもらいたいから知っているけど、翼や他の男友達には「しょうもない」と言われそうでそのことを黙っていた。だからこそ、どうせ着いてくるなら女子か翼以外の男友達の方が良かった。
美鈴の悩みの種である当の本人に着いて生きてもらうなんて論外だ、と思いながら歩いているとテレビで紹介されていの占い師がいる雑居ビルが見えてきた。
テレビで言っていた通りこのビルの1階で占いをしているらしく、表には占いの看板が出ていた。
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