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揺られる身体の痛みから数時間は眠っていたのだと
まだ日にちは変わってはいないのだろうが
どのくらい気を失っていたのか、どのくらい馬車に揺られていたのか、目が覚めた時には辺りは真っ暗
二台は硬い木で出来ており、ズキン!ズキン!と脈に合わせておしりと背中が痛む
それはリリーもおなじようで縛られた腕でしきにり腰をさすっていた。エマもなんとか手をおしりの下におきその痛みを和らげようとするが、縛られた腕に縄がキツく縛られヒリヒリとした。
リリーの腕に目をやると縛られている部分は青紫色に変色して血管は浮き出ている。
「コイツら本当に代わりになるのかな」
「さぁ」
男達のひそひそとした話し声が静かな空間の中でやたらと響いて聞こえてくる。
「残念だ、俺も残念だと思っているよ」
「親と引き離したのは済まなかったな、だが安心していい。悪い場所では無いさ」
その言葉を聞いて悪い人達ではないのかもしれない、と一瞬考えた自分を嗜める。悪くない人は、人を拐ったりしないという単純な答えに行き着くまで時間がかかる。
一体どこに連れられ、なにをするつもりだろうか
「あの野郎め、首なんか括りやがって大迷惑だ。あの野郎の代わりを見つけなければ旦那様との契約金が切れちまう」
「そういう事だ。逃げたら殺すから動くんじゃねぇぞ、ただでさえこっちは仕事が増えてゴキゲンは最悪なんだ」
理解が追いつかないまま黙って話を聞くしかなかった。声は震えて出そうにない。
心拍数は目覚めた時よりも落ち着きをみせてはいるが、代わりに無性に腹立たしく喉元の違和感をエマは感じた。
涙を堪えていたのだ
いつも明るく天然ではあるが天真爛漫なリリーのほうに目をやると俯き黙り込んで表情も見えなくなっている。呆然としているようだ
エマは無理やり唾を飲み込むと胃がキリキリと痛むのを感じた
馬の足音、虫の声、馬車の揺れる騒音が無ければ既に気が狂っていたかもしれない。
「家に返して…ください」
やっと出した声は小さく震えていたが2人の男達の耳元には聞こえていたようだ。
暫くの沈黙を打ち破ったのはヒョロヒョロとした男の方の舌打ち。
「喉にGPSを取り付けた。この世界で、お前はもっと上手く立ち回る生き方でも学ぶんだな」
ヒョロヒョロの男は後ろを向いたままで、告げた淡々とした声から感情は読み取れない。
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